"出世街道"演歌旅13 吉永小百合さんとのエピソード


帰宅した主人(千秋与四夫)から「岡田君と吉永小百合さんの結婚式をうちでやることになってよ」
と告げられたのは、昭和48年8月3日の挙式のわずか3日前でした。
小百合さんは人気絶頂の銀幕の大スターです。
ただただ、驚くばかりでした。
千秋と小百合さんのご主人の岡田太郎さんは、34年、フジテレビの同期入社なんです。
岡田さんは当時、テレビ演出家でフジプロダクションの専務でした。
突然、話を持ちかけられた主人は、「相手は人気女優。どこか大きな神社で挙式したら」といったんは断ったそうですが、「どうしても」と頼まれて引き受けたというのです。
小百合さんは28歳。岡田さんは離婚暦がある上、15歳も年上の43歳でした。
何でも、小百合さんのご両親、特にお父様が結婚に猛反対していらしたそうで、それらの事情もあって、挙式は簡素にしたいと望まれたようです。
お二人の希望が「平服で」ということで、私も特別な支度はしませんでした。
「岡田太郎さん 吉永小百合さん ご結婚おめでとう」と筆で書いて、式を行う3階の客間の前に張ったぐらいですね。


当日、驚いたのは報道陣です。朝の5時頃からわが家の前の道路に記者とカメラマンがひしめき合っていました。
少なくとも150、60人はいたでしょうね。
もちろん、どこにも知らせていませんでしたよ。

小百合さんは花柄のノースリーブのワンピース、岡田さんは紺のスーツ姿でした。
母親代わりの介添人として女優の奈良岡朋子さん、岡田さん側は千秋と私が立会い兼仲人のような形になりました。
たった5人だけの式です。

千秋が339度のお神酒をおつぎしました。小百合さんは終始言葉少なでしたが、さまざまな障害を乗り越えて、愛する人と結婚できるという喜びが全身からあふれ出ていました。言葉にできないくらいおきれいでしたよ。
お二人がよくデートに使っていた新宿のすし店のご主人が立派なタイルを持参され、うちの台所で生き作りにしました。



式も終わり、くつろいでいたころです。
「岡田を絶対に許さない。殺してやる」と男の声で脅迫電話が入りました。
すぐに110番。高輪警察署から私服刑事が6人飛んで来ました。
どういうわけか、皆さん一張羅のようなびしっとしたスーツにネクタイ姿でしたね。
事情を聞かれた後、お二人は刑事さんに守られるように、記者会見と披露宴が行われる新宿の京王プラザホテルへ向かいました。

小百合さんは今でも「お嫁にもらっていただいた」と言うそうです。
容姿はもちろんですが、抜けるように白くきめ細やかな肌の美しさ、気働きの良さ。
いつも謙虚で、大物ぶるような振る舞いなど見た事がありません。
あまりに素晴らしい女性で、嫉妬も起こりませんね。

私のリサイタルでは今も生花が届けられますが、小百合さんからのお花だけは30秒で抜き去られます。
息子の貴弘の結婚披露宴にも出席していただきましたが、出席者が小百合さんを撮ろうと大混乱でした。
お父様がお亡くなりになる前、小百合さんと和解され、結婚をお認めになったそうで、本当によかったと思います。

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